〈五條市〉農福地域連携で持続可能な農業を(パンドラファームグループ) 自然と暮らす 2022.2.15 yuzu 左から和田宗隆さんと王隠堂誠海さん 《連載》自然と暮らす vol.166 (株)パンドラファームグループ 代表取締役/和田 宗隆さん 農福地域連携で持続可能な農業を 西吉野村で生まれ、今や全国に安心安全で健康な食品を出荷する「パンドラファームグループ」。ここで、農業と福祉が助け合う「農福連携」で注目されている。 あんぽ柿の加工風景 富有柿の収穫 熱く語るのは、(株)パンドラファームグループ代表取締役の和田隆さん(65)。 グループ代表の王隠堂誠海さんと共に誰もが携われる現場づくりを目指している。 和田さんは西吉野の林業を営む家に生まれ育った。幼少の頃は林業が盛んで、和田家も職人を雇い、あちこちの山守を請け負っていた。山守とは植樹や伐採、保全管理を行い山を守っていく仕事だ。19歳の時に父が他界。父に代わり、3年ほど山の仕事をしていたが、林業が不景気になり木材の価格が大暴落。途方に暮れていた時、王隠堂さんと出会った。王隠堂家は、江戸時代から農業を営み、明治以降は梅や柿など果樹生産に力を入れてきた。「体に害のない安心安全な食品を作りたい。持続可能な農業を広げたい」という王隠堂さんの夢を聞き、思い切ってそこに飛び込んだ。 梅の天日干し風景/ハウスの中は気温50度にも達する そこからは王隠堂さんと共に農業生産法人の設立に奔走。公害や食品汚染が社会問題となっていた頃で、安心安全な食品を求める市民らの声が高まっていた。それが追い風となって生活協同組合などから引き合いがきて、全国に広がった。 受注が増えてもポリシーは変えない。有機栽培や特別栽培を引き受けてくれる生産者にこだわり、一軒ずつ回って思いを共にする生産者を掘り起こし、奈良県と和歌山県にまたがる生産者組織を作った。 自社農園での野菜生産風景 さらに、それらを加工して商品にする(株)パンドラファームグループを設立、加工場を作り農業の6次産業化を目指した。 「形が少しいびつなどで製品から落ちたものは梅ジュースにするなど、余すところなく使って商品づくりをします。いかに価値を高めるかです」と和田さん。妥協はしない。梅干を漬ける塩は沖縄や長崎の塩を使い、梅ジュースの砂糖は種子島の砂糖などにこだわる。梅は昔からの天日干しを続け、一つひとつ丁寧に手作業で漬けていく。 西吉野の山の上にあるレストラン農悠舎「王隠堂」 旬の地場野菜で作った春のメニュー 持続可能な農業を続けるために梅・柿だけでなく野菜も扱うことにした。野菜は季節によって採れる場所が異なるので、一年を通しての供給を目指して、地場の野菜はもとより全国の生産者に呼びかけて野菜を確保。カット野菜に加工し、ニーズに合わせた商品を全国に出荷する。 こうした現場で進められているのが、農業と福祉の連携だ。「こだわった農業を続けていくには、人が不可欠です。これからは多様な働き方の仕組みを作る必要があるのではと。その一つが農業と福祉の連携です」障がいのある人にもぜひ就労に関わってもらいたいと、都市部の障がい者にも声をかけ、働くことに困難を抱えているニートや引きこもりの人なども含め、現在7人が就労中だ。 林州むかし梅干 下市で林業を営む「豊永林業(株)」と組んでライフスタイルブランド「Kii STYLE」を立ち上げた。吉野杉の漬物箱とぬか床、紀伊の旬の野菜をセットした「今日から始める発酵ぬか漬け生活」(左)と吉野杉のお椀、梅干し、お米を合わせた「朝の目覚め」 簡単には進まなかったが、彼らと会社の間を取り持つ「ジョブコーチ」(職場適応援助者)を社員として採用。一人ひとりの適正を考えた職種のアドバイスやSOSをキャッチするなど、定着できるように務める。昨年2月には同社が奈良県で第一号の「もにす」(障がい者雇用優良事業主)に認定された。 障がい者だけでなく高齢者向けにスマート農業を取り入れ、大型機械のシェアリングなどを進めて働き手を確保する。 「農業を持続させることが、結果この地域を持続させることにつながる。それが我々の役割でもあるのかなと思っています」。福祉、地域、全国の生産者との連携と、和田さんの頭の中はまだまだ多くの構想であふれている。 天地のテラスゆしお Farm & experience ゆしおファームInstagram “農×里山体験”をコンセプトにした1日2組限定のアウトドア施設 Profile 和田 宗隆 WADA MUNETAKA 1956年生まれ。65歳。 大学を中途退学後、実家の林業に着手。21歳の時、王隠堂農園に入社。農業生産法人(有)王院堂農園設立、1996年(株)パンドラファームグループ設立、代表取締役に就任。そのほかグループ企業多数。