〈安堵町〉日本のあかりを支える灯芯づくりの技術を継承(安堵町歴史民俗資料館 灯芯保存会)

前列左から喜多さん、馬場会長、樋野さん、後列左から大門早希子さん、木谷桂子さん、松田佳子さん、川口さん
本来はかつてのように円陣となって世間話に興じながらの 作業だが、コロナ禍の今は分厚いビニールカーテンで仕切り、同一方向を向いて灯芯を引く。それでもマスク越しの会話を楽しめる時間ではある。

《連載》自然と暮らす vol.163

安堵町歴史民俗資料館/灯芯保存会(馬場 昇会長)

日本のあかりを支える灯芯づくりの技術を継承

江戸時代中期から昭和40年頃まで、藺草の栽培と灯芯作りが盛んだった安堵町。灯りがガスや電気に代わり藺草の栽培も途絶えたが、灯芯ひき技術は守り継がれていた。だが担い手の高齢化により技の継承者が減少、技術も途絶える懸念があり、1996年灯芯の保存・普及を目的として有志で発足した「灯芯保存会」(馬場 昇会長)によって、藺草の栽培と灯芯ひきの技術が継承されている。

元興寺の地蔵盆/伝統行事を支える灯芯

灯芯とは和ろうそくや灯明の燃え芯の部分。藺草から引き抜いた白いスポンジのような紐状のズイで、油や溶けたろうを吸って燃える。1㍍はある藺草から切らずに1本の芯を引き抜くのは容易ではない。
現在、会には約40人が所属、藺草の栽培を担う人、伝統技術継承のため灯芯ひきの技量を定期的に磨く人、またその技術を広く知ってもらう広報活動を行う人など、それぞれがボランティアでかかわっている。

資料館の灯芯ひきコーナー

灯芯ひき/押さえ加減、引き加減にコツあり

灯芯ひきは月3回、うち1回は一般参加・講習会を兼ねている。安堵町歴史民俗資料館の1室に専用の引き台を据えて、同館職員の喜多秀和さんが〝うまし(湿らせ)〟た藺草の芯を約2時間引く。ベテランさんで100~200本、新人さんで20~30本とのこと。引き台に付いた専用の刃物の先に藺草の端を差し込み、左の親指で軽く押さえながら右手で引いていく。その押さえ加減・引き加減で表皮と芯とがうまく離れたり、途中で途切れたりするのだという。〝言うは易し〟だが、何年やっても1本ごとに手応えが異なるとのことだ。
この灯芯ひき技術は会の発足から20年を経た2015年、安堵町指定の無形民俗文化財となった。町の大きな歴史・文化遺産の一つとして大切に継承していくためだ。

藺草飾り/千鶴万亀2,000円、吉祥の亀1,500円

取材の日は、10年のベテラン・樋野逸子さんと今夏入会したばかりという地元の「おはなし会–ねこじゃらし–」の4人が灯芯ひき中。樋野さんは「休むと腕が忘れるから来てるけど、同じことしてるようで1回1回違う」と笑い、ねこじゃらしの代表・川口篤子さんは「お水取りのお松明は派手な灯りですが、内陣の灯明は地味でも神聖な灯り。その燃え芯を私たちが引いてることが感慨深い」と。シューと小気味よい音をたてて引く樋野さんの後ろで「藺草は人を見るのでしょうか。一見簡単そうに思えて一筋縄ではいかない。なかなか奥が深いです」「だから〝こんどこそ〟と、はまりまくっています(笑)」と手を動かし続ける4人。〝わが町の民話作り〟をふくらませるための貴重な実体験でもあるという。

人形立て(にんぎょたて)
刈り取った藺草を3日間天日干し

11月初旬、古代米の稲刈り後に藺草の田植え

会では、活動資金作りや広報を兼ね、灯芯のほかミニ行灯、ひき殻で細工した藺草飾り・ストラップなどの手作り小物や、春から秋にかけて栽培する古代米のかき餅なども同資料館で販売。売り上げの一部は善意銀行などへも寄付している。 また毎年東大寺二月堂の修二会(お水取り)や元興寺の地蔵盆用などに灯芯を奉納。「世界遺産のような有名な社寺に灯芯を奉納させていただくことにより〝灯りの町〟安堵町として、知名度も上げていきたい。皆さんぜひ灯芯ひきを体験しにおいでください」と馬場会長。

奈良県再設置運動に尽力した運動家・今村勤三の生家を活用した安堵町歴史民俗資料館

灯芯ひき体験

資料館前で育てる3種の古代米と 藺草の苗床

揺らぐ炎には心が落ち着き安らぐ(リラックスする)効果あり/灯火具「たんころ」500円

ミニ行灯/安堵町にちなんだ柄をデザイン。
平成9年に奈良県の地域おこしデザイン賞「グッドデザイン賞」を受賞。
大(16cm×16cm×28cm)3,000円、小(13cm×13cm×21cm)2,000円
※行灯各種セット内容(行灯1・行灯台1・上皿1・下皿1・灯芯押え1・灯芯1巻・油容器1・使用説明

●切灯芯(あかりの燃え芯) 1束(約20cm、20〜25本)100円
●なたね油 500㎖ 1,200円、200㎖ 600円 
●健康ミニぞうりストラップ300円 ●すずめ筆ストラップ300円
●和ろうそく(赤白混/高さ約8.5cm/5本入)700円
●古代米かきもち 400円(13枚入)

藺草の苗代で馬場会長と世話役の喜多さん

基本情報 Basic Information
安堵町歴史民俗資料館/あんどちょう れきしみんぞくしりょうかん
  • 住所: 奈良県生駒郡安堵町東安堵1322
  • 営業時間: 9:00〜17:00
  • 定休日: 火曜日
  • 料金: 大人 220円(200円) 学生 110円(100円) 小人 60円(50円)
  • TEL: 0743-57-5090
  • HP: https://mus.ando-rekimin.jp/
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