〈奈良市〉まるで宝石!?奈良公園で大活躍のフン虫に魅せられて…『ならまち糞虫館』 奈良もん 2024.8.7 やーさん 奈良で活躍する“奈良もん” 今回は「ならまち糞虫館」の中村圭一館長をご紹介! 宝石のような輝きを放つ、奈良公園をはじめ世界に生息する「糞虫」。その生態や人への貢献ぶりを知ることのできる「ならまち糞虫館」。 中村館長は、幼い頃から生き物が好きで、中学2年の時、級友に糞虫の標本を見せられてその美しさに虜となったそう。以来、奈良公園に通いつめ、ルリセンチコガネ(オオセンチコガネ)をはじめとする奈良公園に住む糞虫探しに没頭しています。 中学3年の時、昆虫同好会を発足、奈良公園で年間を通じた糞虫の生態観察を続け、高1の夏休みには24時間ぶっ通しで1日の生態観察を行いました。そのレポートで、日本学生科学賞(読売新聞社)の奈良県知事賞を受賞しています。 京都大学農学部に入り農林経済学部で学び、卒論は「有機農業の流通に関する一考察」。人間と植物、動物が共存できる自然環境を守る仕事に就きたいと考えていたそうです。 大学の休暇には、リュックを背にフィルムケース(虫を入れる容器)を手にして世界各地で糞をほじくる。卒業後、農林中央金庫に就職し、農業や漁業従事者のことを第一に考える金融機関で、自然環境の保護にもつながる仕事でした。が、職場でのいろいろな事例を経験するたび、「人間の生活が自然を変えている、このままでいいのか」との思いが強まってき、50歳で将来の自分を見据えたそう。「好きな糞虫で何かできることはないか。たくさんの標本、皆に見てもらおう。糞虫博物館つくるぞ」と決め、具現化に向けて始動、2年後に26年勤めた金庫を早期退職、家族のいる奈良にUターン。 まるで宝石のショールーム!? そして2年後、思いを形にした「ならまち糞虫館」を奈良公園に近い奈良町にオープン(2018年7月)。開館に当たっては、高校時代の同級生たちも内装やロゴ作りなどに協力、「とにかく美しい糞虫」だからジュエリーショップをイメージしたディスプレイで足を運んでもらいやすい施設にしました。 展示の糞虫は、中村さんが国内外で見つけてきた約100種を中心に、海外の美麗種やタマオシコガネ、虫好きの人たちから持ち寄られた貴重な標本など。ゴマ粒ほどのものもルーペやライトを手にのぞきこむと、角や触角、色彩など細部にわたってその美しさをあらわにします。 糞虫は、糞を食べ糞に暮らすコガネムシ。日本には約170種の糞虫がいて、奈良公園にはそのうちの約40種が生息。森、川、草原など多様な環境がそろう奈良公園は〝糞虫の聖地〟なのだとか。 糞虫たちの活躍がすごい! 奈良公園には1300頭前後の鹿がいますが、その鹿の糞の総量は1日1トン以上、その糞をせっせと掃除してくれているのが糞虫たちなのです。成虫は糞を食べたり粉々にしたりして土に還し、幼虫は糞を餌に成長します。もし奈良公園に糞虫がいなければ……?「悪臭とハエの発生、病原菌など衛生面で大変ですし、その清掃を人の手でやると人件費や処理設備費など年間100億円ぐらいかかるかも。奈良公園は、鹿が芝刈りをし、糞虫がその糞から肥料を作る」と、糞虫の貢献度をわかりやすく紹介する中村さん。 一方で「糞虫は身近な昆虫なので、人の暮らしの変化に大きな影響を受けます」。近年、奈良公園をはじめ各地で糞虫が減少しており、その原因の多くが不明なのが気がかりだという。「森が乾いてきているのかも。糞虫がいなくなると奈良公園は、糞だらけになり観光客も来なくなります。多くの糞虫たちが末永く暮らしていける自然環境を守ることで、私たちの生活環境を守っていきたい」。