若いお坊さんへのリレーインタビュー
「Boze数珠つなぎ」
#256
Profile
弘法大師南都草庵 空海寺 徒弟
東大寺二月堂勤務
東大寺二月堂勤務
森川 真雅 師
もりかわ しんが
1998年奈良市生まれ。25歳。
ニュージーランド カシミアハイスクール卒業後、龍谷大学国際学部へ。
同大学卒業後、高野山専修学院修了。
2023年4月より空海寺及び東大寺二月堂にて勤務中。
2024年東大寺修二会参籠(新入)
華厳宗と真言宗の二刀流です
弘法大師空海は皆さんもご存じのとおり、日本に真言密教をもたらし、密教の聖地・高野山を開いた方です。が、空海は奈良の地にも数々の足跡を残しました。
空海には東大寺の別当を勤めていた時期があるといわれていますが、その折に自身の草庵として構えた堂宇を起こりとしているのが、ここ空海寺です。東大寺の華厳宗と空海の真言宗、この二つを受け継いでいますので、二刀流の寺といえるのかもしれません。
折しも4月13日から奈良国立博物館で空海展が開催されており、改めてその偉大さに思いを至らせています。が、近過ぎるとかえって気づかないものなのでしょうか。十代までは空海とご縁のある寺に生まれたありがたさを私が実感したことはほとんどありません。実際、寺を継ぐという意識もなく、高校時代はニュージーランドで3年間を過ごしました。
「僕も若い頃は寺を継ぐのは嫌やったから、好きなことをやってごらん」。こう言って住職である父が送り出してくれた日から、今年でちょうど10年になります。
現地では大小様々なカルチャーショックに遭遇しました。日本では当たり前にある塾や予備校、コンビニすらありません。学校では個人のペースや個性を尊重してくれるので、成績順位や点数が出されることはなく、「1学期に比べて○○だった」という自己達成度で評価されました。また夕食後にホストファミリーとクライミングやジムに行くことも多く、時間の流れがゆったりとしていた記憶があります。
ただし、食事をちゃんと用意してくれないホストもいて、食べ盛りだった私はホストと口論したこともありました。最後は笑顔で握手できたので、今となってはそれもいい思い出です。
帰国後は龍谷大学国際学部に進み、「仏教の思想」という必修科目の講義を受けて、遅まきながら「仏教っておもしろいんやな」と気づきました。と同時に、龍大生でも無宗教の学生が多いことがわかったので、ゼミでは「日本人の宗教観」を研究テーマに。こうしていつの間にか仏教への興味が深まり、大学卒業後は高野山専修学院に入学したのです。
同期39人との1年間の修行生活は、思い返せばいつも時間に追われ、常にダッシュしていました。階段から転げ落ちて出血しても手当する時間さえなく、雑巾を巻いてやり過ごしたことも。それほど寮監は恐ろしい存在だったのです。百日間の加行中は21時就寝3時起床の予定でしたが、行が進んで準備や片付けに追われるうちに、いつしか21時就寝23時半起床に変わっていきました。その上だんだん寒さは厳しくなり、手足はひび割れだらけ。思い出すのもつらい過酷な毎日でした。
しかしそんな冬のある日、いつもと全く違う感覚で目覚めたことがあったのです。行をする喜び、とでもいうのでしょうか。それまで感じたことのない清々しさで自分が満たされていました。空海のことばに「それ仏法はるかにあらず 心中にしてすなわち近し」
というものがありますが、この時、身をもってこのことばの意味を確かめることができたように思います。これも鬼のように厳しい教官のご指導あればこそと、感謝しています。
こうして無事下山した昨年春からは、自坊に勤める傍ら、東大寺二月堂にも出仕させていただいております。今年の春には、二月堂修二会(お水取り)の練行衆として参籠する機会もいただきました。
新入の私は、昨年12月16日の配役発表後から別火入りまで、声明や所作の稽古にずっと追われておりました。修二会の声明や所作は、独特でとても複雑なものです。なおかつ行法の中には、時にダイナミックな所作で大きな音をたてるよう求められるものもあります。
高野山では静謐と荘厳がなにより重んじられ、私も修行中に「一切音をたてるな」と厳しく叩き込まれてきました。身についた作法がなかなか抜けず、本行入りしてからも人知れず戸惑いがありました。しかし練行衆の先輩方はとてもやさしく、一つひとつ教えてくださいました。これもまた高野山とは正反対ですね。お蔭様で私もなんとか満行の日を迎え、大きな達成感を味わうことができました。1273年という途方もない歴史を持つ修二会の重みを、今もかみしめています。
また寺務に加えて種智院大学に聴講生として通い、阿字観瞑想などを学んでいます。ちなみに、この大学の前身は空海が民衆のために創った日本最古の学び舎で、綜芸種智院と呼ばれていました。ここでさらに学びを深めて、将来、密教瞑想を体験できる場を寺に作っていきたい。日本語と英語で、多くの方々に空海の教えを伝えていきたい。空海にご縁をいただいたひとりとして、ひそかにこんな目標をもっている私です。
聞き手:朝廣佳子