若いお坊さんへのリレーインタビュー
「Boze数珠つなぎ」
#255
Profile
金峯山修験本宗 総本山 金峯山寺
林 覚道 師
はやし かくどう
1979年 岐阜市生まれ。44歳
2018年1月 東大阪の天龍院に入る
2018年6月 金峯山寺 吉野学林に入行
2019年 四度加行満行
2020年 百日回峰行満行
2021年より金峯山寺に奉職
舞台俳優から僧侶に転身しました
現在、吉野の修験の総本山、金峯山寺で僧侶として奉職させていただいておりますが、元々はお寺と全く縁のない世界で生きてまいりました。岐阜の普通の家庭に生まれ、父は市役所勤めをしておりました。今こうして僧侶をさせていただいているのは、全く想像もしないご縁に導かれたお陰なのです。
大阪の大学に行きましたが、演劇の舞台演出をしていた友人を手伝ううちに感化されて俳優になろうと決意。28歳で東京に行き、養成所に入りました。3年で卒業後、劇団に所属し、昼間は舞台かオーディション回り、夜は飲食店でアルバイトの毎日でした。睡眠時間4時間ほどで頑張りましたが、貯金はあっという間に底をつきました。
でも、舞台俳優は楽しかったです。宮沢賢治さんの作品をモチーフにしたものに出ることが多くて、突き詰めるとテーマが、人ってすばらしいという「人間賛歌」なわけです。それを表現するにはどうすればいいのかと考え続けている時、ある修験者の方に出会ったのです。「こんな世界もあるんだ」と初めて知りました。そして、さらにご縁をいただいて東大阪の山の中にある天龍院という修験のお寺に行くことになったのです。
そのお寺のご住職は、寡黙でほとんどしゃべらない方でした。一番最初に、ご住職と一緒にお堂までの山道を歩いいる道中で、お地蔵さんの前を素通りした私の後ろで、ご住職がじっと手を合わせておられました。そして「私たちが手を合わせようが合わせまいが、お地蔵さんはいつも手を合わせてくださっている」と言われました。「あぁ、仏教から学ぶことは多いな。ご住職がお地蔵さんを思いやっておられるからかな」と感じ、そのまま半年間、お寺に居候させていただき、ご住職と寝食を共にさせていただきました。
ご住職は、「毎朝滝に入りなさい」ということ以外、何も言わない方でした。何をしたらいいのかわからず、まず般若心経を覚え、掃除をしたり食事を作ったりと、自分で判断してご住職の見様見真似で覚えていきました。そんな毎日を送るうちに「お坊さんになろう」と決意したのです。
ご住職に「修験の本山に行きたいです」とお願いすると、意外にすんなり労を取ってくださり、39歳の時に金峯山寺で、天龍院のご住職を師僧として得度受戒させていただきました。吉野学林という修行所に入り、2年目に四度加行、3年目には百日回峰行を満行させていただきました。
百日回峰行とは、百日間、吉野山と山上ヶ岳まで間を行き来する修行で大変過酷なものです。やってみて気づいたことは、修行は私一人がするものと思っていたのですが、私一人のために大変大勢の方々のサポート態勢が出来上がっていたのです。皆様のバックアップがなければ、到底達成はできるものではありませんでした。
夜中の0時半に起きて滝に入り、1時半にお寺を出発、山上に8時前に到着します。朝食をいただきお勤めをしてすぐ帰路に着き、15時に金峯山に到着。すぐに衣類を洗濯しながらお風呂に入り、衣類にアイロンをかけて夕食を頂き18時半に消灯、を繰り返します。
行きも帰りもたった一人なので、考える時間がとても多く、良いことも悪いことも、いっぱい頭に浮かびました。出会った人や過去の出来事などが出てきて、感謝や思いやりの心にあふれる時もありましたが、全然そんな気になれない時もありました。中でも一番驚いたのは、自分が赤ん坊の時の記憶が蘇った時でした。ベビーベッドの中から周りを見ている自分の感覚を思い出し、本当にびっくりしました。
悪いことしか出てこない時はたいてい体調も悪い時で、心と体は一体なんだと気づかされました。いい時、悪い時を何十回、何百回繰り返したことで、感謝する力が身に付いたのかなとも思います。そうした時間を持てたお陰で、今まで人生で何が良かったのか、何がだめだったのか、心の中で整理整頓ができた気がします。役者として頑張った10年も自分の財産なんだと気持ちのけじめもできました。
修験道というのは、自然のものすべてに神仏が宿るという教えですが、山を歩くということはシンプルながら得るものが大きくて「心を整える」こともできるのです。
山上の蔵王堂と吉野山の蔵王堂が繋がっていることに大きな意味があり、その道を千三百年前から先人も歩き自分を見つめてきた、だから世界遺産なんだなと感じます。
今年は、「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産登録20周年にあたります。この記念すべき年に、私は山上ヶ岳頂上にある蔵王堂(大峯山寺)に代僧として勤務させていただくことになっております。大峯山寺は、日本で最も高いところにある重要文化財の寺で、多くの修験者がお参りに来られます。今から身の引き締まる思いがしております。山上でお待ちしております。20周年で様々なイベントも行われます。どうぞお楽しみに。
聞き手:朝廣佳子
金峯山寺 行事
国宝仁王門大修理勧進
日本最大秘仏本尊特別ご開帳
2024年3月23日~5月6日
■特別拝観料大人1,600円、中高1,200円、小800円
花供懺法会
千年の歴史を持つ金峯山寺の伝統法会
大名行列は、奴行列を先頭に、鬼やお稚児さん、山伏、僧侶、
管長猊下が乗られた大名駕籠と続く格式のある行列
■2024年4月10日 花供千本搗き・女人採灯大護摩供
■2024年4月11日 大名行列・花供懺法会・採灯大護摩供
■2024年4月12日 大名行列・花供懺法会・採灯大護摩供