Boze数珠繋ぎ#250|喜蔵院・中井 智教 師

若いお坊さんへのリレーインタビュー

「Boze数珠つなぎ」

#250

Profile

本山修験宗別格本山
護法山 喜蔵院 住職

中井 智教 師

なかい ちきょう

1978年吉野山生まれ。44歳
大学卒業後、聖護院修験学寮を終えて、喜蔵院に入るとともに、聖護院に勤務。
2022年、住職に就任。

大峯奥駈修行に参加しませんか

奈良県吉野山の中腹にある、喜蔵院です。修験のお寺で、平安時代に智証大師円珍によって創建されました。後に聖護院門跡を本山とする本山修験宗の別格本山となりました。

大峯山護持院として知られており、多くの信者さんが立ち寄られます。宿坊もしていたのですが、コロナ禍に入り、残念ながら休業している状態です。

私は、普段はこの喜蔵院とともに、本山である京都の聖護院にも勤めさせていただいております。

大峯山は、実際は山上ヶ岳、稲村ヶ岳、八経ヶ岳などの山脈を総称したものです。約1300年前に役行者が開かれた修験道の修行の聖地とされ、霊峰としてあがめられてきました。今でも多くの修験者が修行をしております。山上ヶ岳は今日でも女人禁制ですが、その他の大峯山脈の山々は女性も可能で、女性信者の方も多くいらっしゃいます。
日本百名山やユネスコ世界遺産にもなっているので、修験者や信者ではない一般の登山者も多く登るようになりました。ただ、一つ間違えば命を落とす危険な個所が多いし、油断すると通常ルートを外れて獣道に入ってしまうこともあり、そうなると遭難してしまうこともあります。実際に私も偶然遭難者と出会ったことがあります。我々が通るのが後1〜2分ずれていたら、その人とは出会わなかっただろうという状況で、本当にまれなことでした。
修行にもいろいろあって、山上ヶ岳に1日で登る、あるいは1泊2日で登るコースなどは、よく企業の研修や初心者の方が利用されるコースですが、私共のお寺で毎年行っているのが大峯奥駈(おくがけ)修行といって、4泊5日で吉野と熊野を結ぶ大峯山脈を縦走する過酷なコースです。

近鉄六田駅を出発し、吉野川で水行して身を清め(コロナの間は中止)、吉野神宮や金峯山寺を参拝し1日目が終了。2日目は朝3時に出発し、大峯山を目指します。そこから弥山、八経ヶ岳など次々と縦走していき、前鬼へ。そこからバスで喜蔵院に戻ります。

お世話をする先達は、参加者の皆さんがケガなく全員目的地に到達することを目指しサポートします。何より相互の助け合いが大切になります。

全行程数日間にも及ぶ険しい道を行く、まさに修行の場です。私は平成14年から参加しております。父である先代住職が長年先達を務めており、参加者は全国から来られます。遠くは千葉、埼玉、東京、西は広島、カナダから外国人が参加したこともありました。

行くまでは正直すごく憂鬱です。自分の参拝だけでもキツイのに、それに加え、参加者の皆様を満行させる責任があるからです。でもこの行程を終えた後の満足感と達成感は何ものにも代えがたいです。戻って最初に入るお風呂が天国のように感じます。肉体的にも精神的にもつらいからこそ修行になるのであって、わあ楽しかったでは、修行になっていないということです。

お山に登らせていただくと、自然のすばらしさに魅了されるとともに、普段いかにぜいたくな暮らしをしているかを実感します。そしていろんな人に助けてもらっているのだということを実感します。

この大峯奥駈修行のほかに、喜蔵院での大きな行事が「寿稲荷大祭 採燈大護摩供」という行事です。

うちの境内に稲荷神社があるのですが、その神様をお寺の本堂の前に仮遷しをさせていただきます。行者講の連合体により交替制で護摩壇を組み、金峯山寺本堂前より山伏行列を行います。その後護摩を焚きます。

今年の大祭の折に、私の新住職としての晋山式を行いました。普段は聖護院から採燈師を招くのですが、晋山式ということで、私自身が採燈師となり、各団体の重鎮が見守る中、なんとか務めることができました。皆様からご祝儀を賜り、感極まって考えていた話の内容が吹き飛んでしまって、何とも残念な挨拶となってしまいました。
奉告文の中で、このお寺の歴史に触れ、改めて自坊のすごさを感じましたが、私自身は本当はお寺を継ぎたくなかったのです。このお寺に長男として生まれ、この道しか残されていないのではないかというあきらめの境地で僧侶になりました。やりたいことはあったのに自信が持てず、大学を出て、聖護院ならば自分を受け入れてくれるのではと修験学寮に2年間入りました。
勉強というより、毎日草引きや掃除。でもそれが修行だったのです。最後の加行も無事に終えて、聖護院の職員も務めながら自坊で勤め始めました。
今でも迷い悩む日々かもしれません。迷い悩みながら毎年お山に登らせていただき、自分を見つめることを繰り返しております。それもまたよしとして、今年も挑んできます。

《喜蔵院の年間行事》

2月 3日~9日  星祭り
5月 3日    大峯山寺戸開式
9月23日    大峯山寺戸閉式
12月第一日曜日 採燈大護摩供

聞き手:朝廣佳子

基本情報 Basic Information
大峯山護持院 喜蔵院/きぞういん
  • 住所: 奈良県吉野郡吉野町吉野山1254
  • TEL: 0746-32-3014
  • HP: https://kizoin.jp/
  • SNS:
戻る