若いお坊さんへのリレーインタビュー
「Boze数珠つなぎ」
#249
Profile
大峯山 龍泉寺 住職
岡田 悦雄 師
おかだ えつおう
1971年、奈良県天川村生まれ。
甲南大学理学部卒業、会社員を経て醍醐寺伝法学院へ。
修了後、龍泉寺に入山。
2002年同寺住職に就任。
山に入るのは神仏と一体になることです
修験道というと山伏を思い浮かべる方が多いと思います。
さぞ大変な荒行をして山に登るのが修験ではないかと思われがちですが、基本は違います。
我々は自然の恵みを受けて生きています。
当たり前に水道をひねると出る水はどこから来ているのでしょうか。
たどっていくと、山に降った雪や雨が長い時間をかけて山に浸透し、土の中で浄化され、栄養分を含んで少しずつ流れていく、それがさらに時を経て川に流れ、我々の飲み水になっていくのです。
昔の人はそのことをよくわかっていたので、いつも山に手を合わせて感謝していました。
そして収穫したお米を奉納するようになり、さらに山頂に祠を作って、山の神様にお米を捧げるようになりました。
山の神々に感謝をすること、これが山岳信仰であり、これこそ修験の原点なのです。
つまり、大峯山に登って荒々しい行をしなくても、近くの山でもいい、ちょっとした公園でもいい、自然のあるところに行って森の空気に触れ、自然の恵みに感謝の気持ちを持つことが修験なのです。
だから修験の行はいつでもどこでも誰でもできます。
「ちょっと修験者してくるわ」と近所の公園に出かければいいのです。
でも自分一人ではなかなかその境地に至らなかったり、ちょっと大変な思いをしなければ実感として湧いてこなかったりする。
だから大峯山に登って、体験し、我々僧侶や修験者の方たちからいろいろ話をさせていただき、気づいていただく機会とするのです。
自然にはすべてに魂があります。うちのお寺でも実感できますよ。
境内に「なで石」というのがあります。
大切になでた後に石を持つとすんなり持ち上げられますが、石をたたいた後持ち上げようとすると不思議なことに、重くて全然持ちあがりません。
石にも魂があることを教えられます。
私はこのお寺で生まれ育ったので、4歳の頃から大峯山に登っていました。
1月2日には毎年初山参りを行います。
4歳から初山参りを始め、以来今まで一度も欠かしたことはありません。
当たり前と思ってきたので何もしんどくなかったです。
ですがそのほかのお寺のことには特に関わることなく育ちました。
このあたりは中学校までしかないので、高校は皆離れたところに行きます。
私も寮に一人暮らしで高校に行きました。
その頃はお寺を継ぐのは嫌だったので、大学は理学部に進み、そのまま電気設備の会社に就職、システム関係の仕事をしておりました。
5年勤めた頃、父が体調を崩し、お寺に帰ることにしました。
その時はもうその道しかないと腹をくくっていましたので、そのまま京都・醍醐寺の伝法学院に1年間入り、加行を終えて僧侶となり、自坊に戻りました。
戻ってすぐに父が亡くなり、そこからが大変でした。
実践がわからないから醍醐寺にいた叔父に教えてもらいながら勤めましたが、さっぱりわからない時もありました。
がむしゃらに頑張りましたが、当時のことを思い出すとお檀家さんや信者さんがよくおおらかに見守ってくださったなと、支えていただいたことに感謝でいっぱいです。
お寺に戻って2年後に何とか住職になり、晋山法要とともに、先代が改修工事を進めていた八大龍王堂の落慶法要を行うことができました。
先代は完成を見ることなく亡くなり、さぞ無念だったかと思うと同時に、少しは親孝行できたかなと思います。
自坊に戻って23年。様々な悩みを持った多くの方々と接してきました。
例えば病気だった方が、山に登るたびに元気になっていったり、これが最期の大峯山と思って登った方が、登ると元気になってまた次に来ようと頑張る姿などをたくさん見てまいりました。
山にはその「気」というものがあり、「気」に触れることで心身共に健康にしていただけるのです。
よく仏教の修行で「入我我入」といって、お勤めする時、仏様と一体になりなさいと言われます。
でも修験道の場合、山自体が神仏そのものなので、山に入ることですぐ神仏と一体になれるのです。有り難いことですよね。
さて、山に入られる時、何かを得ようと思って入るのは間違いです。
日頃の感謝とお礼を伝えに登るのです。
するとまた大きな力を与えてくださいます。
ぜひそれを実践してみてください。必ずあなたの人生が豊かになりますよ。
《龍泉寺の年間行事》
1月5日 初彌勒会
2月3日 節分会(星祭り)
3月1日 交通安全祈祷護摩
3月21日 弘法大師供養法要
5月3日 大峯山寺戸開式
6月7日〜9日 三寶院門跡花供入峯
8月2日〜3日 洞川行者祭り
9月中旬 燈花会
9月23日 大峯山寺戸閉式
9月25日 水子精霊供養法要
10月第2日曜 八大龍王大祭
(10月1日が日曜日の場合は第3日曜日になります)
聞き手:朝廣佳子