〈香芝市〉五位堂鋳物師の伝統技術を日用品ブランド開発で伝播(五位堂工業株式会社代) 自然と暮らす 2021.9.15 yuzu 約1,400℃もの高温の溶湯(ようとう)を鋳型に流し込む 《連載》自然と暮らす vol.160 五位堂工業株式会社 代表取締役/津田 家仁さん 五位堂鋳物師の伝統技術を日用品ブランド開発で伝播でんぱ 奈良時代から1200年以上の歴史を持つ五位堂鋳物いもじ師の最後の棟梁一族が、伝統技術の継承・周知を図るため、家庭用の日用品づくりを通してブランド再興を目指している。 鋳物師とは、一定の型(鋳型)に金属を溶かして注ぎ込み、様々な形のものを作る職人。五位堂鋳物師は香芝市五位堂地域の職人集団の3家で、かつては東大寺の大仏づくりにもかかわった鋳物師に由来するという言い伝えがあり、中近世には朝廷の許可を得て各地の梵鐘や燈籠を製造。その台頭初期を飾るものに「国家安康」で知られる京都方広寺大仏殿の梵鐘鋳造がある。 炉では回収された鉄塊がみるみる溶けていく 木型の上に置いた金枠に砂を詰めて鋳型を製造 主な製品は、日用品の鍋釜や農具類で、五位堂鍋や五位堂備中びっちゅう(備中鍬)は、五位堂ブランドとして定着していたという。しかし昭和25年頃をピークに、農業の機械化とともに工業製品の製造に主軸が移った。 その鋳物文化を一般の暮らしの場へも浸透させたいと、デザインや色も現代に通用する鍋敷きや食器など生活小物の製造に奮起しているのが、第17代目社長の津田家仁さんだ。古文書や過去帳などに残るもので17代目だが、江戸時代の鋳物師は公家の支配下で鋳造業などを行っており、当時の史料に「…天平時代、東大寺の大仏の鐘の鋳造にもかかわっていた云々」とあることから、逆算すると約40代目にもなろうかという歴史ある鋳物師だ。 溶湯を作る電気炉(1トン用)から流れ落ちる溶湯 耐火性を高める塗料塗り(塗型) 津田さんは、3人の姉がいる一人息子。「将来は家業を継ぐんだろうな」と思いつつも大学は電子情報工学科へ進み、鉄鋼メーカーで電気設備エンジニアとして働いた。そして、父で当時社長(現相談役)の家宏さんの家業を継ぐ形で、7年前に入社。 「五位堂に鋳物産業があったことを知らない人が増えてきたのを常々残念に思っていた」津田さん。そこへ大学の文学部文化財学科を卒業して2020年春に入社したのが、同市出身で〝古いもの好き〟の足達千晶さんだ。「初めて知った地元産業の歴史にはまりました」。「日用品として手に取り、その文化や歴史を知ってほしい」という社長の思いに意気投合。 方広寺梵鐘/五位堂の津田五郎兵衛が脇棟梁として鋳造に参加した記録が残る 箸置き、鉄皿、鍋敷き、ペン立てなどカラフルな鋳物雑貨 口宣案(くぜんあん)/寛文四年に朝廷より発給された鋳物師官職の任命書(写し) より多くの人に知ってもらうためにクラウドファンディング(CF)でアピールすることにした。五位堂鋳物師の歴史を古文書や写真などで紹介し賛同を募る。その返礼品として鍋敷き、箸置き、ペン立て、鉄皿などを発案。彩色も錆止めを兼ねたカラフルなものにした。鉄皿には青森県の伝統柄「こぎん刺し」をあしらった。1300年も前の先祖が関わったと伝わる奈良の大仏鋳造(745年)には、尾太鉱山から銅を運んだという深い縁に感銘を受けたからだ。 鋳物師職許状/全国の鋳物師を支配した公家・真継家より発給された鋳物師職の許状(原本)原本が残る津田家文書としては最古の享保十五年 農具を製造・販売していた昭和時代頃に使われていたチラシ/カネゴ(┐に五)の屋号を使っていたことがわかる より多くの人に知ってもらうためにクラウドファンディング(CF)でアピールすることにした。五位堂鋳物師の歴史を古文書や写真などで紹介し賛同を募る。その返礼品として鍋敷き、箸置き、ペン立て、鉄皿などを発案。彩色も錆止めを兼ねたカラフルなものにした。鉄皿には青森県の伝統柄「こぎん刺し」をあしらった。1300年も前の先祖が関わったと伝わる奈良の大仏鋳造(745年)には、尾太鉱山から銅を運んだという深い縁えにしに感銘を受けたからだ。 2021年春に始めたCFの目標額は100万円、地元をはじめ全国から100人の支援が集まった。目下そのリターンに対応しながら、思いに応えるための更なるアイデアを練っている最中だ。「鋳物は重いのが難ですが、ステーキ皿にも使われるように蓄熱性や熱伝導率が高いので、火通り良く旨みを閉じこめられるというメリットがあります。鉄板のようにツルっとしていない梨地感も特長です。その質感も伝えたい」と二人。 西には金剛山・葛城山の山容が望める自然豊かな地 メリットはまだある。「鋳物は、溶かしてまた別のものを造り直すことができるのでゴミにならず、リサイクルを通じた持続可能な社会づくりに貢献できます」。まさに工場では、回収された鉄塊が1400℃の電気炉で次々と溶かされ、船舶のエンジン部品用の型に流し込まれていた。 「日本の鋳物には歴史があり、その技術は世界に誇れるものです。それを五位堂鋳物師として世界に発信していきたい」と熱源100%の工場に負けず熱い津田社長。 社長の津田家仁さんと品質管理・広報を担う足達千晶さん Profile 津田 家仁 IEHITO TSUDA 1988年、香芝市生まれ、大学卒業後、鉄鋼メーカーで電気設備エンジニアとして働いた後、2013年に五位堂工業へ入社、2021年3月社長に就任した。家業の五位堂鋳物師の歴史と伝統の継承・伝播に努めようと、日用品の生産にも着手。 どんな日用品やインテリアが家庭に取り込んでもらえるか、種類やデザイン、カラーなどをリサーチ中です。 「こんなのあったらいいな」をお寄せください