若いお坊さんへのリレーインタビュー
「Boze数珠つなぎ」
#254
Profile
華厳宗大本山 東大寺 大仏殿詰/真言宗 金龍寺 副住職
池田 圭誠 師
いけだ けいせい
1974年奈良市生まれ。49歳。
近畿大学理工学部卒業後、一般企業に就職。32歳で東大寺で加行を受け仏門に入る。
神名帳をカラオケみたいに歌ってしまいました
いよいよ東大寺二月堂のお水取りが近づいてまいりました。
私は華厳宗大本山東大寺の末寺・奈良市都祁の金龍寺で生まれ育ち、17年前から東大寺に勤めております。
今年も11人の練行衆が3月1日~14日の2週間、二月堂で悔過法要をさせていただきます。これはこの世のすべての人々の罪や過ちをひたすらご本尊の十一面観音様に懺悔し、天下泰平や五穀豊穣を祈る法要です。
11人の配役はすべて違い、毎年変わります。私は今年で14回目の練行衆を勤めますが、北座衆之一という役に拝命されました。とにかくしっかり真剣に取り組んで自分のやれることをすべて出し切る気持ちで臨みたいと思っています。
そんな私も実は僧侶になるべく加行を受けた時は、お水取りすら知らない状態でした。お寺で生まれ育ったものの、僧侶になるなんて気持ちは全くなく、父からもとがめられませんでした。ゆえに大学は理工学部に入り、情報関係の仕事をしようと卒業後は事務機の会社に就職しました。
それが母方の祖父が亡くなった時、自分の人生を見つめ直す機会となり、その時初めて父に「何をしてもいいけれど、僧侶の資格は取っておけ」と言われ、会社を辞めて東大寺で加行をさせていただくことにしたのです。私が32歳の時でした。
東大寺の他の僧侶の皆さんからはお叱りを受けそうですが、加行を受けるにあたり、仏教のこともお寺のこともほとんど知らずに入りました。加行は9月から1月まで百十二日間、二月堂のさらに上にある観音堂に一人籠もって朝から夜中までひたすら仏様に向き合い、一日三百回の礼拝やお経、護摩を焚くなどします。行は一日3回。朝4時、正午、夜7時に行います。冬の夜が寒くてそれがつらかったです。
加行をやっと終えた後、翌月の修二会(お水取り)に入るように言われました。僧侶になりたての私が半月もしないまま、練行衆の一人に加えていただいたのです。
一番下の「処世界(新入)」という役です。処世界とは期間中毎日、他の練行衆より早くお堂に入り、掃除や準備をします。さらにお水取りには試別火
という前行が2月20日からあるのですが、処世界は15日から入って準備にかかります。
ただ先にもお話ししたように、お水取りを知らない、お松明すら見たことがない私でしたので、一から十まですべて教えていただく有様。長老に一日中声明の稽古をつけていただくなど、わけのわからぬまま特訓していただき、怒涛のごとく過ぎた日々でした。
練行衆は全員、「参籠宿所」というところで合宿生活のように一緒に寝泊まりします。そのため、各自自分の持ち物に家紋を貼り付けるのですが、試別火に入ってからそもそも家紋を知らないことに気づき、仕方がないので、〇に金と入れて貼ったら「まるきんさん」と呼ばれるようになりました。また神名帳を読み上げた時はメロディーを付け過ぎて「カラオケみたいだ」とお叱りを受けたこともありました。
わからぬままで失敗だらけでしたが、先輩方にすべて助けていただき、乗り切ることができました。こんな私なので僧侶としての役目はないだろうと、一般企業を探すしかないなと次の就職のことを考えていました。ところが、お水取りが終わる頃、二月堂に来なさいとお声がけをいただき、就職させていただくことができたのです。
なので、自分の強い意思がほぼないまま、なんとなく僧侶になり、練行衆をさせていただき、東大寺に勤めているという人生です。ですが、これが仏様のご縁だと私は思っています。「お前はここでちゃんと修行をし、皆のために働きなさい」と仏様が道を作ってくださったのだと思います。
今はむろん、先に話したように、真剣に仏様と向き合って祈りを捧げている毎日です。
さて、私の実家の金龍寺は、山田道安の開基とされます。山田道安は、東大寺の二度目の焼き討ちの後、私財を投げ打ち大仏様の胴体を修復された方です。宗派は正式に言うと「華厳宗戒壇末院真言宗」というらしく、東大寺の戒壇院の僧侶らが修行するために建立されたお寺のようです。
1月には、毎年初祈祷行事として、うるしの木の枝を十数人が持って一斉にたたく「乱声(らんじょう)」という昔からの珍しい行事があります。
また、祖父の叔父が復興した、元興寺塔跡の住職を今は父が継いでおります。そのうち私が継がせていただくことになるかと思います。現在は門を閉めておりますが、塔跡に咲く美しい桜が有名で、多くの方がお参りになります。
私の新たな使命は、金龍寺とともにこの元興寺塔跡を未来へ、のちの世代へ繋いでいくことだと思います。一緒にお手伝いいただける方、いらっしゃいましたらぜひご連絡ください。
聞き手:朝廣佳子