若いお坊さんへのリレーインタビュー
「Boze数珠つなぎ」
#253
Profile
日蓮宗 妙法山 神通寺 副住職／良薬堂 住職
鷲阪 仁昭 師
わしさか じんしょう
1975年名張市生まれ。身延山高校、身延山短期大学を卒業後、信行道場修了。神通寺に入山。大荒行を４回満行。
神様の力を伝える存在でありたいです
日蓮宗のお寺、近隣では珍しいと思います。厳しい行が有名で、私はその修行にずいぶん鍛えられている、三重県名張市の日蓮宗神通寺の副住職です。
お寺がある桜ケ丘は元々山で、山の中にぽつんと建っているお寺だったのですが、あっという間に住宅が立ち並び、今は街中のお寺になりました。
祖母は神通寺だけに？ 神通力があったようで、尼さんとして人様の悩みに応え、ご祈祷させていただいておりました。評判を呼び、宗派を問わず大勢の方が訪れておりました。
父に続き私は３代目になるのですが、幼い頃から家族や檀家さんからの期待がとても大きく、それが私にはプレッシャーでした。でも僧侶になってお寺を継がなければならないことは決まっている。えーい、それならお坊さんの世界に飛び込んでしまおうと、中学卒業後、日蓮宗の総本山である身延山高校に自ら志願して入りました。
これが大きな勘違いでした。日蓮宗は行がきついことで有名だったのです。甘い考えで入るととんでもなく厳しい毎日。40人の寮生活を送るのですが、新米の１年間は本当に苦しくて、肉体のきつさに耐えるだけの精神が持たない状態でした。
学校といっても朝4時に起床し夜22時の就寝まで、学校以外はすべて修行です。歯磨きチェックまでされるのできちんと身支度して、太鼓をたたきながら隊列を組んで本山に向かいお勤めをし、終わると寮のお堂で読経。朝食、掃除が終わって9時から学校です。16時に帰ると夕方のお勤め、食事、お風
呂、自由時間で22時消灯です。また毎週日曜日には隊列を組んで全山を回ります。お陰でスポーツもしていないのに結構な体力がつきました。
厳しくてやめる人もいましたが、私はやめそびれたというか、「いつかは終わるんだ」と言い聞かせて頑張りました。本山にはトップクラスの僧侶をはじめ多くの僧侶がいるので、毎日大法要を行っているようなものです。お陰で１年で法要の仕方や作法などすべて覚えることができました。
今思い起こしても、先輩に厳しく指導いただいたからこそ体にたたき込むことができ、身に着けることができました。また厳しい修行だったからこそ、さらに上の修行にも挑戦することができたと、今思うとあんな有り難いところはなかったと、心から感謝しています。
そのまま旧身延山短期大学（現身延
山大学）で3年間学び、最後に信行道
場というところで35日間の加行を終えて、やっと新米僧侶となりました。
日蓮宗の行は行脚か水行が主です。最も有名なのが102日間籠もって水行を行う大荒行です。受けなくてもいい特別な行ですが、日蓮宗独自のご祈祷法を身に着けるために挑戦しました。
11月1日から2月10日までの真冬に行われます。朝３時に起床してお経を唱えながら水をかぶり、以降３時間おきに１日７回水をかぶる行です。その後は次の水行までお堂でずっと読経です。行中に死にかけた人もいるので、入る前に入念に身体検査をします。行中は身内が死んでも出られないし、百日間お寺をあけるので、念書を書いて参加します。出てきた時は髪が伸びて遭難者みたいになっています。
食事は1日２回お粥のみ。つい水を飲みたくなりますが、行中はトイレに行けないのでうかつに飲めません。
まさにギリギリの生活を行うことで、懺悔し、自分の行いを改めて、神様からいただいた体に生まれ変わるという意味です。ちょうど人間の細胞が変わるのが90日と言われているので、デトックスの意味でもあるのでしょうね。
荒行はどんな意味があるのかというと、五段の邪気（生霊、死霊、呪詛、疫神、野狐）を百日かけて取るのです。生霊は生きている人の強い恨みです。
死霊は死んだ人の霊。法事を忘れるなどすると障ります。呪詛は呪いです。疫神は神様の障りです。古いお札を粗末に扱うと障ります。野狐は動物霊です。神様の部下には動物が多いのですが、神様を粗末にした時にその子分である動物たちが悪さをすると言われます。
人々の因縁を払うのにその因縁を突き止めなければいけません。そんな力を身に着けるためにこの大荒行に挑戦し、25年間で４回満行しました。まもなく５回目を受ける予定です。でもこの行は5回しか受けられないし、年齢制限もあります。
日蓮宗は「南無妙法漣華経」と唱えるだけで誰でも幸せになれるという現世利益をうたっています。だからぜひおまじないの言葉として、いつでも口にしてみてください。
私はお寺にご縁のある皆様の人生を応援する、神様の力を伝える存在でいたいと思っています。宗派に関係なくぜひ会いにいらしてください。
聞き手：朝廣佳子
