若いお坊さんへのリレーインタビュー
「Boze数珠つなぎ」
#251
Profile
真言宗御室派 日光寺 僧侶
真言宗御室派総本山 仁和寺 書記
真言宗御室派総本山 仁和寺 書記
磯矢 浄悠 師
いそや じょうゆう
1998年、奈良県下市町生まれ。25歳。
初芝橋本高校、近畿大学経営学部卒業。
仁和寺密教学院を経て日光寺僧侶に。
昨年より仁和寺に勤務。
サッカーが私の原点です
吉野郡下市の日光寺の僧侶で、普段は京都の仁和寺に勤めています。
仁和寺は真言宗御室派の総本山で、境内が2万坪もある広大なお寺です。平安時代に宇多天皇が興され、代々皇室出身者が門跡(住職)を勤めてこられました。ゆえに境内には勅使門や宸殿など、皇室に所縁の深い御所風建築物があります。
私は現在、ご門跡の随行のお役をさせていただいております。ご門跡と常にご一緒させていただくので、先日には上皇様や上皇后様の奉迎・奉送にご一緒させていただくなど、普段では絶対に出会えない場面を経験させていただき、本当に有り難く思っております。
葬儀や法要などが入った時は、実家の日光寺に戻り、住職である祖父のもとで手伝っております。
私は下市の生まれなのですが、父はサラリーマンの普通の家庭で、日光寺は母方の実家です。お寺には単におじいちゃんに会いに行く程度の気持ちでした。
僧侶になるなんてみじんも思わずにサッカー漬けの少年期でした。橿原市にあるサッカークラブ「ボルベニル橿原」に入り、小4からはゴールキーパーになりました。高校は和歌山の初芝橋本高校のサッカー部で1年生の時には全国大会のメンバーに入りました。
部員百人はいるサッカー強豪校で、実際、私の同級生や先輩、後輩は後にJリーガーになって活躍している人も
います。私自身もキーパーとして1年からAランクに入り、期待してもらっていました。
まさに絶頂期のある日、練習で肩をケガしてしまったのです。手術をしても完治するまでに1年以上かかり、その時には高校は卒業しています。この時はまさに崖から突き落とされたような気持ちで人生で一番落ち込みました。
ゴールキーパーというのは最後に体を張って球を止めます。自分が止めることで皆がものすごく喜んでくれる、それがうれしくて早朝からの自主練習も頑張ってきました。またキーパーは後ろから常に試合全体を見ることができるので、試合中では監督より指示を多く出します。そんな要であることが本当にうれしかった。でもそれができなくなってしまったのです。
サッカーが嫌いになり、ボールを見たくもないと思いました。でも練習は休みませんでした。それは両親や兄妹が私のサッカーのために私学にも行かせてくれていつも応援してくれてきたことにあります。両親に申し訳ないのでケガのことは隠して部活に行き続けました。
つらくてたまらない日々が続いたある日、このままではダメだと思ったのです。何かやれることをやろうと、食事を改善したり、練習メニューを変えたりして前向きに取り組み始めました。
また後輩や同期のキーパーをできるだ
けサポートしようと決めました。
最後までその後輩を鼓舞し続けたことを顧問の先生に「よくやった」と言われ、自分がやってきたことは間違いじゃなかったと思え、挫折によって成長させてもらったと気づきました。
ただ私のサッカー人生はこれで終わらず、大学に入ってから、サッカーチームのキーパーのコーチも頼まれて、サッカーに関わってこられたのも有り難かったです。
サッカー漬けの青春でしたが、私はサッカーをやってきたから今の自分があると思っています。規律や忍耐、努力の大切さを身をもって学びました。
就職活動を始め、内定はもらったのですが、そんな頃、父方の祖母がすい臓がんになったのです。余命宣告をされて大変ショックを受けました。その時、今までまったく考えもしなかったのに僧侶になって自分の家族や友人を送れたらいいなと考えたのです。
お寺の祖父にそのことを告げると大喜びで、檀家の方が「住職が生き返った」というほど祖父が元気になりました。今年84歳ですが今も元気に住職をしております。それだけでもおじいちゃん孝行になったかなと思います。
それから仁和寺の密教学院で一年間修行をしました。同期6人と寝食を共にし、へたすると1時間しか睡眠できない日もありました。お経を覚えるなどは大変でしたが、体力的にはまったく平気でサッカー部で鍛えていただいたことにつくづく感謝した次第です。
いずれ自坊に帰る予定ですが、今はとにかくいろんなことに挑戦して体験を積み重ねたいと思います。それまで仁和寺でしか体験できないことをしっかり身に着けようと思います。
お寺の行く末は厳しいと言われますが、私はやりたいことがたくさんあります。仏教の教えを若い人にわかりやすく伝えたい。仏教というと堅苦しく聞こえますが、日常生活の中に溶け込んでいます。
特に若い人たちには、今も生きにくさを感じている人がたくさんいます。同世代だからこそぜひ相談してほしいです。いつでも声をかけてください。
聞き手:朝廣佳子