11月21日[木]

〈奈良みやげ〉長谷寺参りの土産物『女夫饅頭』の復刻物語

江戸時代、伊勢本街道を行き交う旅人に愛された銘菓「女夫饅頭」

かつて伊勢参り・長谷詣での土産物として人気を博した「女夫饅頭(めおとまんじゅう)」。江戸時代末の観光案内書『西国三十三所名所図会』に、桜井市黒崎地区の名産として登場し、国学者の本居宣長も食したと伝わる(『菅笠日記』)大和の銘菓です。

図会には、「満んぢう黒嵜村本家常安屋」の看板と「黒崎名物女夫饅頭」ののれんがかかった茅葺の店が描かれています。店先には饅頭が並び、たすきがけの男が竹皮に饅頭を包んでいたり、奥では湯気の上がる蒸篭が積まれたかまどがあり、男が薪をくべるその焚き口からは勢い良く炎が燃え盛り、女が蒸し上がった饅頭を次々と運んでいるといった具合。伊勢本街道(初瀬街道)の往来を、編み笠をかぶった旅人が行き交い、足を止めた客は、笠や杖を脇に置き、商い台の饅頭を物色・注文している様子などが見て取れます。

『西国三十三所名所図会』

「長谷寺より半里ばかり 此方に黒嵜村といへるありて 此里の名物とて 饅頭を二ツあわし これを女夫まんぢうとて 商ふ家多し 黒崎といへども 白きはだとはだ 合せて味ひ 女夫饅頭 柚柳亭 翠鴬」

黒崎村は、長谷寺から約2km西の宿場で、街道筋には女夫饅頭を商う店が多くありました。

協力者を得ての復元物語

そんな名物菓子でしたが、時代の流れと共に製造が途絶えていきました。2012年、当時春日大社権宮司だった岡本彰夫氏(現宇賀志屋文庫庫長・奈良県立大学客員教授)から、「今が復元できるぎりぎりでは」と背中を押され、その復刻に踏み切ったのが、地元の印刷会社代表の堀井清孝さん。地元の古老を訪ね、文献を紐解き、その調査を基に、奈良市の菓子職人で萬御菓子誂處「樫舎」の主・喜多誠一郎さんの協力を得て、約60年ぶりに女夫饅頭が復元したのです。

見た目はシンプルな紅白2層の饅頭ですが、中は手の込んだ多層構造。当時は紅白の部分とその重なり部分にこしあんが入った酒饅頭だったといいますが、江戸時代なら粒あんだったはず、など原点に立ち返りながらも、菓子職人魂が加味。白は薯蕷饅頭、紅は酒饅頭とし、それぞれに練り込む山の芋は部位を変えました。あんは、紅と白の饅頭にはこしあんを入れ、その重なり部分に粒あんを挟む3層構造。蒸し上がりの見た目も考え、皮の厚みや大きさも加減したそうです。

蒸したての風味を大和の風景写真とともに

甦った名物饅頭を皆に味わってもらう場所をと長谷寺参道筋に開店したのが、「大和隠国の里 やまとびとのこころ店」でした。地域の活性化を目指すカフェ&セレクトショップで、地元作家の作品や奈良の伝統技術製品などを販売しています。

カフェでは、オリジナル映像や大和の風景写真を眺めながら、抹茶や大和茶と共に蒸したての女夫饅頭がいただけます。

実は黒崎地区の黒崎小学校(現朝倉小学校)は、堀井さんの母校。同小学校でも授業で女夫饅頭復元の取り組みを行ったことがあり、堀井さんは「地元のおじさん先生」として招かれ、郷土の菓子物語を子どもたちに話して聞かせたことも。「地域の子どもたちからまた次の世代へとつなげていけたらうれしいです」と堀井さん。

やまとびと株式会社 代表取締役社長 堀井清孝さん(左)と「大和隠国の里 やまとびとのこころ店」店長 堀井史子さん
「印刷会社ができる地域貢献は何か?」という思いで仕事をするなか、地元桜井で途絶えかけているものを掘り起こし、次世代へバトンタッチできたらと思いました。銘菓・女夫饅頭を復元できたら、それを味わってもらえるスペースを用意したい、と。それがこの店です。蒸したての饅頭は、湯気と共に立ち上る香りと食感が格別ですよ。
長谷寺門前
基本情報 Basic Information
大和隠国の里 やまとびとのこころ店/やまとこもりくのさと やまとびとのこころみせ
  • 住所: 桜井市初瀬830
  • 営業時間: 10:00〜15:00(土日祝のみ営業)
  • 定休日: 月〜金曜
  • 駐車場: なし(近隣に有料Pあり)
  • TEL: 0744-55-2221
  • HP: https://yamatobito.net/kokoromise/

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