〈御所市〉古き良き銭湯文化を守る奈良の若手番頭/御所宝湯 太田有哉さん 2023.12.7 鮎 江戸時代のまちなみが残る奈良県御所市・御所まちにある同市内唯一の銭湯『御所宝湯』。1916年の創業で2008年に一度廃業しましたが、2022年、“泊・食・湯” 分離型の滞在拠点『GOSE SENTO HOTEL』の入浴施設として復活を遂げました。 銭湯の番頭になりたい! 番頭を務める太田有哉さんは奈良県宇陀市の出身。小さい頃から大の銭湯好きで、家族とよく近鉄榛原駅近くの銭湯『ニュー福寿温泉』へ通っていたそう。「子どもの頃から夢はお風呂屋さんでした」と話します。 やがて社会人となり銀行員として勤務していた太田さんですが、後継者不足や高齢化によって閉業が相次ぐ銭湯を何とかできないか、そういう思いを持つようになります。 「2020年頃から県内各地の銭湯を『継がせてもらえないか』と巡り、実は1軒話がまとまりかけていたんですが直前でダメになってしまって…」 なんとこの時、太田さんは退職届まで出した後。これからどうしようかと思っていた矢先、風呂仲間から「GOSE SENTO HOTEL」の話を聞き、担当企業に繋いでもらいます。 「ちょうど企業側もプレイヤーとなる人材を探していたようで、本当にタイミングがよかったと思います」と太田さん。その後、滋賀県大津市の都湯で修業したのち、御所宝湯にて夢の番頭さんに着任しました。 レトロと現代が交錯するお風呂場 復活した宝湯はノスタルジックで昭和レトロ感溢れる雰囲気を残しつつ、新たにフィンランド式サウナと露天水風呂を備えた外気浴場が新設されました。 改装されたとはいえ、年季の入った柱や扉、陶器ならではの独特な色彩のタイルなど、王道のTHE 銭湯といった雰囲気を醸し出しています。 脱衣場 フィンランド式サウナ また新たにロビーが設けられていて、ひんやりと冷えた牛乳やアイスクリームを食べながら入浴後の一服を楽しむことができます。 毎日がドタバタ奮闘劇 銭湯の一日は掃除から。営業時間の4時間ほど前に出勤して、施設の清掃や点検、備品の補充などを行います。開業1年目は何が起こるかわからない未知数なことも多く、営業時もさまざまなトラブルを経て日々一歩ずつより良いお風呂場作りを目指します。 「夏場には露天水風呂に蚊が大量発生してしまって。こういう時は塩素を増やして対処するんですが、増やしすぎると次は塩素臭さが気になってしまう。長年続く銭湯であれば、こうした課題に各々対処法を確立されているんですが、僕らはまだそれがないので毎日工夫しながら良い方法を探しています」 利用者によるルールやマナーの違反もしばしば。太田さんはこうした状況を「迷子になる」と表現します。「銭湯は誰にでも“安心・安全・清潔・親切”であることが大事です。利用者が誰ひとりとして迷子にならないように案内を工夫するのが番台の役目。責任をお客さんに転嫁してはいけないと考えています」 この先100年、地域に愛される銭湯に 「公衆浴場はスーパー銭湯と違って娯楽施設というよりも福祉施設の性格が強い」と太田さん。実際に家だと転倒が不安で風呂に入れないという一人暮らしの高齢者も毎日利用してくれているといいます。 「もちろん観光客の方やサウナーの方にも利用してもらえることも嬉しいですが、まず第一に生活の中で必要とする人に安心して入ってもらえるお風呂を提供することが大事だと思っています。」 「それをこれから先もずっと継続していくために、属人化せず、誰が運営しても毎日“安心・安全・清潔・親切”なお風呂が提供できるよう、100年残るオペレーションを作っていきたいと思っています」 太田さんの番頭人生の始まりと共に、御所宝湯の第2章は次の100年へと歩んでいきます。 Profile 太田 有哉 OHTA YUYA 1995年、奈良県宇陀市生まれの28歳。銭湯の番頭になるという子どもの頃からの夢を叶えるため、務めていた銀行を退職。都湯(滋賀県大津市)で修業したのち、『御所宝湯』の番頭として日々奮闘中。